最後まで強行姿勢をくずさなかつたは、埼玉製作所であったが、この闘争の過程で、組合も共闘の必要性を理解しはじめたはずである。
埼玉労組は交渉代表権を中央に委ねた。
危機を脱したと考えた組合は、その年の年末一時金に大胆な要求をぶつけた。
しかも事情を複雑にしたのは、このとき既に、埼玉製作所の埼玉労組に続いて、中央労組、浜松労組の3組合ができていたことである。
経営危機に対する認識においても、経営者と従業員の立場では異なる。
最悪の窮地においては認識を一にできても、窮地を脱したときには従業員は危機は去ったと考え、今まで耐えた分の報酬を要求したくなる。
経営者には、病み上がりの体力不安は痛いほどに身にしみている。
Hの場合もそうであっH氏は、会社を代表する最高責任者として組合執行部と対時する。
H氏の回答は、組合の要求とはかけ離れた一律5000円でしかなかった。
執行部がこれでは闘争体制継続しかありえないというのを聞いて、H氏は自ら集会に出て組合員全員を前に回答内容を説明したいとまで言った。
執行部の立場を守り回答を承諾させるにはそれしかないとの判断であった。
異例のことである。
権力の二重構造支払いを止められ、注文を大幅に減らされてもなお、Hを支援してくれた外注業者。
そこの従業員が、どのようにして年を越すかと思うと、どうしても組合の要求には応じられなかった。
あのとき、もし組合の要求通りに出していたら、Hの外注先に対する信用は、ガタ落ちしたであろう。
そうなれば、今日のHが存在したかどうか。
委員長は全従業員の前で、「この5千円をどう思うか?」と、Hにつめよった。
「問題にならない低い金額だ」Hは、素直に答えた。
何千人にものぼる組合員との団交である。
たった1人で対時したH氏は、問題にならない低い回答の経営背景をくどくどとは述べなかった。
ただ、責任は俺たちにあったとだけ言いきっている。
そのうえで、あと1年耐えてくれれば会社は健康体に戻るという見通しを繰り返し語った。
もう少し格好のつく回答も工面できなかったわけではない。
ただ、H氏は、同時に支払いを猶予してくれている部品メーカーのことが頭にあったはずである。
H氏は後にこう告白している。
創業間もない頃に迎えた経営危機は、こうしてHに日本型の労使関係、外注業者との緋を結ばせることになった。
ここで最も注意しておかねばならないのは、このときの危機回避がHS氏ではなく、H氏の手腕のよってなされたことである。
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